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魔剣士エレン
 こんにちは。ジャックでっす。

皆さん「魔剣士エレン」という人をご存知ですか?
騎士の武器である「エレンの剣」の説明文を読むと
その名前が記されているのが分かると思います。

昔からこの「エレン」という人物はどんな人なんだろう…。
どういう性格で、どういう活躍をして、どういう風に今に名前を残してきたのか。

そんな事を悶々と考えていると、よからぬ妄想がにゅるりと鎌首もたげて
出てきてしまうのです。

2次職として「魔剣士」が実装された頃、(デザインが発表された頃)
その魔剣士の情報を元に私はその妄想に色づけする事を決めました。

そんなワケで今回は、ある男が体験し書に綴ったという形態をとり、
エレンという人物のストーリーを「if 的」に書き出し載せてみよう!と、
思った次第であります。

ようはアレです。エ〇ゲーの出番の少ないキャラを妄想し、
SS(ショート・ショート/ショートストーリー(?))を勢いで書いちゃった。みたいな。
そんなノリです。

私の悪ノリについてこれそうな優しい方は、どうぞ一読してくださいませ。



  ―1―

平和だな。

晴れた日の昼下がり。柔らかい日差しの中、適度に心地よい風を受け、
絶え間なく繰り返す噴水の水音にふと耳を傾けていると、
現実から遠く離れた夢の世界へと誘われそうになる。

俺は今何もせず、ただこうしてつっ立っている。日がな一日、ずっと。
特定の「誰か」を待っているわけではない。命令に従いここに立っているのだ。
好き好んでこんな事をしているわけではないが、これも仕事だ。
仕事を持つ者は仕事中はその作業に専念し、与えられた義務をまっとうする為に
我が身と時間を消費しなければならない。今までだってずっとそうしてきた。
以前とは仕事内容はガラリと変わったが、これからもそうしてゆく。簡単な事だ。

俺は過去に今まで自分がどんな事をしてきたのかを思い出し、ふとこんな事をつぶやいた。

「俺の今までしてきた事は仕事だったのか?」

フン。鼻で笑って自らをあざ笑う。仕事なんて程、立派なものではない。
上の者は俺の事を仕事熱心な者だと言い、周りは将来人々の為になる素晴らしい仕事だと称えた。
だがそうでは無い。
俺がこうして今ここにあるのは自分がそうしてきたかったからだろうか。
いや。もしかするとこれは、本当に自分の意思であったのか。とすら疑わしくも思える。
俺はきっと、とり憑かれているのだ。あの日あの場所からずっと。

よい機会だ。
これまでは仕事の忙しさを理由に過去を振り返ろうとしなかった。
思い出したくも無かったが、今の自分にはそうする事が必要なように思えた。
それに…正直、今は暇でしょうがない。

噴水の縁に腰かけ、鞄から紙とペンと取り出した。
綴ろう。記録を。
記憶は鮮明に覚えている。脳ででは無い。五感の全てで憶えているのだ。
しばしどう書き始めるのかを思案してから、ペンを持ち紙に文字を書き始めたが、
最初の一節は手の振るえでミミズの這い回ったような字になった。
だが気にすまい。誰が読むわけでもない。自らの為に書いているのだから。



  ―2―

もう何年前になるか。
始まりは確かあの酒場からだったように思う。

その日、俺は上司に連れられ数人の仕事仲間と供に酒場に飲みにきていた。
当時、俺はまだ若く、今の地位にはなかった。当然、給金もろくにもらえず
日々の糧に困る事もしばしば。そんな折りに食事や酒に誘われたなら
心よく思っていない上司の誘いだろうとついてゆくというものだ。

「みんな知っているか。噂に轟く黒い剣士の事を。」

皆よりいち早く出来上がっている上司は一同を見回しこんなふうに切り出した。
先程まで自分の仕事ぶりを過大評価で自慢していたのだが、唐突に話したい内容が変わったらしい。
もちろん皆、知っていたが聞くふりをして、適当に「へえ」「ほお」と生返事をして合わせた。

噂の黒い剣士とは、最近、剣士や騎士の間で目撃が報告されている女剣士の事である。
全身黒ずくめで長い黒髪。見た事もないような武具を身にまとい、見た事も無いような技で、バイルと闘うのだそうだ。
その剣技は壮絶の一言に尽き、剣を撫でるように一振りするだけでバイルの死体が山と積みあがる、と言われ、強力な魔剣を使いこなす事の出来る達人ではないかと考えられている。
その剣士と会話を交わした者は無く、また、すぐにその場から立ち去り消えてしまうので、その人物の人となりなどの詳細は一切わからず、ある程度の外見的特長以外は謎の人物とされている。
今では噂に尾ひれがついて、噂の黒い女剣士はきっと魔界の住人に違いないと言われるようにもなりここ最近では「魔剣士」や「魔人」といった呼び名がつけられる始末だ。

そんな話をたっぷり一時間も上司から聞いた後、俺は気分が悪くなったと嘘をつき、
トイレにいくふりをして、その場から逃げ出した。皆、いつも同じ手口で一人づつ抜けてゆくがその頃には上司も記憶が無くなるので、何の問題もない。
酔いつぶれている上司を叩き起こさなければいけない酒場の主人には申し訳ないと思うが。

仲間達より先手で逃げ出した俺は丁度よい酔い加減で夜の街を散歩した。
まだ街は寝静まる時間ではなく、民家や商店からは人々が生活する喧騒が耳に届き、どこからともなく漂ってくる料理の匂いが鼻をくすぐる。
程よく冷たい夜の風が、酔いで熱くなった顔を撫でてゆくのがとても心地よい。
俺は気分がよくなり鼻歌を歌いながら、家路に向かう遠回りの道をわざと選んで歩いていった。

暗い小道にさしかかり、そこから更に脇道を通ろうと民家の角を曲がったとき―。
目の前に何か黒い大きな塊が落ちているのに気づき、一瞬驚いて鼻歌も陽気な足取りもピタと止まった。
最初黒い大きな岩か、大きな黒い傘でも落ちているのかと思ったが、「それ」には頭が付いていた。
裏道の薄暗さで良く分からなかったのだが、目を凝らしてよく見ると長い黒髪が垂れ下がっている人間が、黒いマントを羽織って少し後ろ気味に(こちらに対して)しゃがみこんでいるのだと理解した。

その人間は俺の存在に気づいたのかゆっくり、本当にゆっくりとこちらに頭をめぐらせ振り向いた。
しゃがみこんでいるその姿は黒いマントと相まって大きな亀がこちらを振り向いたのかとの錯覚を起こさせたが、こちらを振り向いて初めて女だと気づいた。
血のような赤色をした瞳が、この薄暗闇の中でも特徴的に映え、少々不気味な印象さえ受けてしまう。
その赤い瞳が俺とぴたりと合うと、女はそのままぴくりとも動かなくなった。

目があったままどのくらい経ったか。5分か?30分か?本当のところ数秒にすぎなかったのだろうが、相手は俺を見つめ続け石像のように固まってしまったので、気まずくなり時間の経過に混乱を生じた。

「にゃー」

その音に、はっと我に返り、ようやく女から目をはずす事が出来た。
音の出所はどうやら女の足元にいる猫の鳴き声らしい。
魔剣士エレン_d0056743_14233188.jpg

白と黒の牛のような柄の猫だ。猫の鳴き声に女もようやくアクションを起こしたが、
またさっきと同じ速度で首をめぐらせ、猫の方に向き直っただけでまた動かなくなる。

どうやらこの女はその猫と戯れているだけのようだった。だからこんな所でしゃがみこんでいたのか。
少し冷静さを取り戻し女を興味本位で観察してみて今さら気づいたが、この女はただの女ではないようだ。
黒いマントの端が長く膨らみ、左肩からは、いかつい鎧の肩当らしきものがちらりと覗いている。
マントの膨らみは恐らく剣であろう。

ここでさっきの酒場での話しを思い出した。長い黒髪。全身黒ずくめ。そして女剣士。
一瞬で酔いが醒める気分に陥った。まさか…あの噂に聞く「魔剣士」では?と。

しかし、女はのろのろとした手つきで猫を撫でまわすと、か細い声で何かぶつぶつと呟き、くすくすと笑った。
それを見たとき、俺は何を馬鹿な、と今心にこみ上げてきた冷たい恐怖心を払拭した。
あの噂自体、本当かどうかも分からないし、実際にそんな人知を超える程の魔人が存在するのだろうか?
所詮、噂は噂だ。自分の目の前で起こった現実とはかけ離れた、ただの空想の産物にすぎない。
俺はくるりと向きを変えて、女のいた場所とは逆の方角に歩き出した。
バイルと戦争状態にある昨今、武具を身にまとった女など珍しいものでもない。
多少驚かされはしたが、それだけの事。その日、この出来事はとるに足らない出来事として処理され次の日の少し残った二日酔いで、きれいさっぱり忘れる事となった。



  ―3―

その日から幾日かたったある日。
派遣の人員として城勤めの研究者の助手をしていた俺は、上からこんな仕事を言い渡された。

「街の西部に謎のワープゲートらしきものが突如出現した。そのゲートに侵入、調査し報告せよ 以上。」

なんなんだ、その簡潔かつ、どんな事をすればいいのかもよくわからない内容は、と思ったが兎に角やるしかないというのが俺の立場と実状だ。
今回、この任にあたるについて「例の上司」と幾人かの若い騎士が同伴でゲートに潜入する事になった。
この人事を決めたのも何を隠そう上司である。なぜこんな面子になったかは上司のこすずるい頭に聞いて欲しい。

昔から忽然とワープゲートがどこからともなく現れるという現象は、ごくまれにある事で、これまでに何度となく調査され、国の閲覧できる部類の報告書にまとめられている。
大抵は見慣れぬ空間に繋がっていて、中には広大な世界が広がっており、何も無い世界もしくは、少数の非常に弱いバイルの生存を確認した例がある。と、過去のゲート調査報告書には伝え記されている。
それで今回も然り、同じ状況だろうと踏んでいる上の連中が「念のため」騎士を(まだ若い騎士を)同行させて、軽く見回ってこい。というわけだ。

このゲートが出現する原因はいまだに分かっていないのだから、念のため調べなければならないというのが城の…この国のお偉いさん方の言い分だ。
俺はというと研究者としては、いてもいなくてもいい身分だからこの任に就かされた。上司はただの監視係りだ。
ようは、あまりもののパーティで今回の「ゲートピクニック」に出向くわけだが、これでも研究者の端くれ。
紙やペン、望遠鏡にコンパスと虫眼鏡、その他採集用具多数と携帯食料に水。そういった諸々の装備は忘れない。
その中で特に忘れてはならないのが命綱だ。
この命綱はゲートに入るときから垂らして帰還の目印とする。これが無いと無限回廊と化しているかもしれない空間で永遠に彷徨う危険性が生じてしまうのだ。

ゲートの外側には「KEEP OUT」のテープが張られ民間人の入るのを防いでいる。
といっても、そこには警備員の一人も立ってはいない。通り掛かる住民もいったん足を止めてゲートを見るものの、すぐに興味を失って立ち去ってゆく。
我々は日常生活的に人口的に(魔法的とでもいうのか)作られたゲートを使用しているのだから、住民にとっても特段珍しいものでもないのだ。

準備を整え計5人のパーティでゲートに一人ずつ入っていく。最後に俺が命綱の巻かれた大きなリールが傍にある木にしっかりロープで固定されてる事を確認して、皆の後に続きゲート内へと進入していった。

中は―  
広大な砂漠だった。
どこだか分からないがレッドソイル地方に似ている。だがレッドソイルとの相違点は、この世界には「何も無い」という事だろうか。
レッドソイルならまだ植物やバイルがいようが、ここには本当に何も無い。
一面の砂、砂、砂。その砂の個性の集合体が砂丘。空は暗く夜のように見えるが、どうやら夜ではないようだ。
砂漠の夜ならかなりの冷え込みのはず。しかし今は特に寒くも無い。それどころか、まるで熱を帯びていないように思える。
風はなく大気は止まり、世界の終焉の場所の如く時すらも感じられない。
俺たちのように生命を持つ者が来ていい場所ではないのでは無かったのか?
俺は初めて未確認ゲートというものの中に入ったが、ゲートとはこんなにも不安と焦りを感じる場所なのか。
そう思いはしたものの、やる事はやらなければならない。入った時はとは逆に今度は俺が先陣を切って歩き出す。
若い騎士も、そしてあの上司すらも何かこの世界に感じ取ったようだ。皆、無言で俺の後を追って歩きにくい砂漠の砂の上をのろのろと歩き出はじめる。
腰に巻きつけた命綱が唯一の安心感を与えてくれた。

それから、どのくらい経ったのだろうか。
俺は時計などという高級品は持っていないので、懐中時計を持っている上司にあれからどのくらいの時間歩いたか聞いてみた。すると…
上司は青ざめた顔で「入ったときと同じ時間だ」と小声で教えてくれた。

馬鹿な。散々歩き、何か無いかと何度も何度も周りを見回し地形も調査し、疲れて水を何度も飲んだというのに、あれから一分も経ってないというのか。
騎士たち3人もお互いの顔を見合わせ、不安の顔を隠そうともしない。
推算では軽く2~3時間は歩いたはず。それで何もないのだから、時計が止まっていようが、何だろうがそろそろ帰還すべきだと上司と騎士たちに提案してみた。もちろん皆、二つ返事で了解した。

行きと同じく俺が先頭になり、目印である黄色と黒の縞模様の命綱を辿りながら、歩きにくい砂の上を靴の中に砂が入るのもかまわず、無理やり足早に歩いていった。

しばらく歩いたときに俺は、先ほどとは違う何かを感じ取った。風だ。風がかすかに吹いている。
よくよく考えれば当たり前の事だ。
風が無ければ砂も個性を発揮して山なり谷なりといった情景を作り出したりはしないはずである。
どうやら時間は動いているようだ。大気は動き世界は生きている。その事実に俺は心なしかほっとした。
上司の時計はきっと壊れていたのだろう。帰ったらすぐ修理に出すといい。無駄金は持っているのだから。
そんな事を思いながら、ふと後ろの上司や騎士達を見てみた。

瞬間。

何が起こったのか分からなかった。
一番後ろを歩いていた騎士は何か得体の知れないモノに持ち上げられ、悲鳴をあげた。
巨大な…形容のしようのない赤く太いポールのようなもがそそり立ち、長く伸びた関節のある槍の様なものの先に騎士を串刺していた。
騎士をくっつけたまま、その「赤いの」は槍を2度3度振り回し、ブン!という音とともに騎士を後方遥か遠く高くに投げ捨てた。目を見開いて、その光景をまばたきもせず俺は見ていた。
体が硬直し、まばたきする事も出来なかったのかもしれない。
騎士はあの勢いで地面に落ちたわりにはまだ生きていたようだった。きっと砂が硬い地面よりもクッションを効かせてくれたのだろう。
だが重症には変わりなさそうだ。
右手が震えながら宙を彷徨い助けを乞うているのが「赤いの」の後ろで小さく見えた。

だが。
どこから現れたのか。また何か現れた。今度は人より小さい砂色で半円状の何か。
釣り針の様な鉤が一本下から飛び出し、くるくると動いている。
ソレは「赤いの」の後方、投げられた騎士のそばに何匹か現れて群れ集まり…。
そして騎士を更に後方、砂丘の彼方へと連れ去っていった。今度は悲鳴は聞こえなかった。

いつの間にか俺はかなり後ろへ後ずさっていたが、そんな事には気づかなかった。
騎士がもう一人「赤いの」にまた持ち上げられているのを見て、心臓が全力を超えて激しく鼓動し、血液が体中でチリチリするのが分かったが、手足は氷のように冷たくなってしまった感じがした。

後ろを向け。振り返るな。走れ、走れ。脳の古い部分からの命令が頭の中をわんわんこだまする。
その命令に従い体を動かそうとしたが上手く体が機能しなかった。
すると上司が俺を突き飛ばし、先に走って逃げていった。
だが俺はこのとき上司に感謝した。突き飛ばされたショックがきっかけとなり体が動いた。
足が上下できる事がこれほど嬉しいと思った事はない。

残るもう一人の騎士は…。どうなったか分からない。
ただ俺が逃げようと走りはじめたとき、右手方向にまた奇怪な何か…巨大な皿に長い数本の足をつけたような長大なモノがギチギチ音をならしながら向こうへ歩行していくのが見えた。
その「足長」の足の真ん中、皿の下に垂れ下がっている水袋のようなものがじたばたしているような気がした…。

走って走って。命綱の後を追い散々走ったところで、命綱が切れているのに気がつき愕然とした。
途中、見覚えのある懐中時計とブーツが転がっているのを見かけたがそんなものは興味の対象外である。
今興味があるのは、この恐怖から逃れる事。ただその一点だけなのだ。

命綱と供に緊張の糸も切れてしまったのか。散々走った事もあり、その場にへたりこんでしまった。
どうしたらいい。方向さえわかればとコンパスを取り出したが針はくるくる回り一定しない。
望遠鏡を覗きあたりに目を凝らしたが砂の白い色と空の暗い色だけしか見えなかった。
くそっくそっ。と毒づくも手は振るえ呼吸は荒かった。望遠鏡をいったん下ろし砂丘の水平線に目を細める。

そのとき、砂丘の陰から巨大なものが音もなく現れ血の気が引いた。もう勘弁してくれ。エリムの加護は俺のような小市民には届かないのか。
吐きたくなったが何も出てこない。数回えずいて兎に角立ち上がろうとしたが出来なかった。
疲労困憊。恐怖の極限。俺にはもうあの未知のバイルらしきモノを眺める事と、苦しまない死を望むより他は何も出来なかった。

今度現れたのは形容のしようが少しあった。鮫だ。殆ど口だけの。動きはかなり鈍いようだ。
それが一匹、また一匹とどこからか現れては増え、俺を囲みはじめた。
遠くてよく分からなかったが「口だけの鮫」には沢山のそれこそ、百足のような足が体の真下に生えていてそれで地面を這っているのだと分かった。
へたに速度が遅い分、恐怖もじわじわと迫ってくる。
数メートル先まで迫ってくると、体に似つかわしくない小さな黒い目がまばたいた。下から上へと捲り上がるように。

俺はもう終わりだ。
人間は死の瞬間走馬灯のように人生を思い出すというが、ろくな人生を生きてこなかった俺には、そんなものは不必要だ。天国になど行けはしないだろうが、地獄は今この瞬間よりまともな場所だろうかと、ぼんやりとりとめのない事を考え目を閉じた。

また。
風が吹いた。

今更、先ほどと同じ希望を持つ事など、この風にはできない。無常に吹き抜けるただの風だ。
が、今度は違った。
何気なしに薄目を開けるとそこには眼前一杯に黒いものが跳ね上げられ、はためいていた。
その黒い中から一筋の白く輝く水の様なものが軌跡を描き、黒いものの右にすっと据えられた。
何が起こったのか分からなかった。先ほどと同じに。

そこにあったのは、人間だった。
跳ね上げられた黒いマント。その中に人類の形。右に突き出されたのは剣だった。一人の人間の後ろ姿。
薄目を大きく見開く。そのときまだ風が吹いていたが、その風は意思を持ち目の前の人間にすいこまれているような気がした。
その人間は風を纏いつつ、微動だにしなかったが、周りの大気は激しく躍動し、世界は歓喜に息づいて、この者に深遠の意識を与えていた。
白い剣は今や青白い炎を湛え、静かな怒りに脈打ち、主人が命令してくれるのを武者震いのようにカタカタ震えて待っている。

今この世界の中心は間違いなくこの者だ。そう直感した。

バチッ!

何かが爆ぜる音と共に目の前の者の体が閃光の中に包まれた。

ドンッ!

爆発?竜巻?地震?
どれととも取れる爆音が鳴り響き砂が巻き上げられ、衝撃が風を巻き込んで俺の体を後ろに転げさせた。
うつ伏せに倒れこみ、砂にまみれた。しこたま口に入った砂を吐き出し咳き込みながら顔を上げる。
何が起こった。突風と砂塵が全ての世界を覆い隠し、息をするのも忘れ事の収束を待った。
そして。

風が止み砂塵が晴れてくると、そこにある者を見出したが、巨大な影達はどこにもいなくなっていた。
なびく黒いマント、そして長い黒髪。見たことも無いような武具を着込み、先程いた場所よりさらに前方に立っていた。
滑らかな動作で白く美しい剣をくるりと返し、切っ先を鞘に滑り込ませる。剣の怒りは収まっているようだ。
「キン」という涼しげな水をはじくような音がして剣は鞘に完全に納まった。

その者は…、こちらを振り返った。いつかどこかで見た、ゆっくりとした動作で。
あの女剣士だ。
路地裏で見た猫と戯れていた亀の様な女。その瞳は間違いなくあの時見た血のような赤い瞳だった。
魔剣士エレン_d0056743_14251041.jpg

静寂が戻ってきた中で女は蚊の鳴くようなか細い声でこう言った。

「白黒の猫…見ませんでしたか?」

何を言っているのか一瞬、いや、たっぷりした時間理解出来なかった。
そのまま無言で…放心状態でいると、女剣士は聞いたのは無駄だったとでも思ったのか、のそりと前に向き直った。この場にはもういる必要がないとの判断か。
俺は何か言おうと思った。何か、何か言いたかった。そして口に出した言葉は、

「魔剣士…」

だった。
人間混乱しているときは予想だにしない言葉を口走るものらしい。我ながら間抜けである事この上ない。
だが、もっと予想もしていない反応を示したのは女剣士の方であった。

「違います。エレンです。」

眠そうな無表情でそう言うと、すっと左指を持ち上げ遠くを指した。
それ以上は何もしなかったし、何も喋らなかった。ただ彼女…「エレン」と名乗った者は指を指した方とは逆の方向に歩き出した。のろのろとした速度で。
エレンが遠ざかり小さな点になり砂丘の向こうへ消えた頃、俺はやっと我に帰った。
そして思い出す。彼女が指さした方向を見た。その方向、はるか彼方にはワープゲートがあった。
あたりに危険がまだあるのではと、きょろきょろとあちこち見回す。するとそこかしこに、エレンがあの時倒したのであろう、怪異達の残骸が、まさに木っ端微塵という体で砂漠のあちこちに散乱していた。
だが今はそんな事はどうでもいい。一刻も早くあのワープゲートにたどり着き、そして、そこから「生きた世界」に帰るのだ。俺のいるべき場所はここじゃない。



  ―4―

こうして俺はあの恐怖から生還した。外に出てしばらくしてゲートは自然消滅してしまった。
それまでずっとゲートを見つめ続けたがエレンは外に出てきた気配が無かった。

この事件以来、ゲート調査は慎重に行われるようになり、冒険者にも広く人員を募るようになった。
国の財産である騎士などの人員をこれ以上失わないようにしたいのが国の本音だ。
俺の入ったゲート以降、「未確認ワープゲート」はその本性をガラリと変え、バイルひしめく巣窟へと変貌を遂げてしまった。その理由は未だに解明されていないが、ゲート内の世界がバイルを生み出し、この人間世界にバイルを送り出す拠点の一種ではないかとの論文も発表されている。
ただ一つ分かっているのは、俺が遭遇した怪異達の目撃例はそれ以降のゲート調査では一切ない。という事だ。
あのエレンという剣士もそれから一度も目にしていない。月日が経つにつれ噂も収束し、ただ伝説となって今に語り継がれている。

生きているって素晴らしい。と言う言葉があるが、あのときの恐怖を引きずって生きていくのは中々に一苦労である。
今の俺がこうして気が触れず生きていられるのも人生をある事に費やしてきたからであろう。
忙しさが嫌な事を忘れさせてくれる。そういう事だ。

さっきも考えていた。仕事として俺はやってきた事だその本性は違う。
俺が長年かけてきた事は偶然人の役に立つであろう研究として認められ、その成果は結実し今、世の冒険者達に広く提供される形となっている。

あの時見た、未知の世界、未知の生命体、未知の武具、未知の技、人類の未知への革新。そんなものを俺は追い求め、研究し、それを形に成そうと生涯を捧げ努力してきた。
残念ながら量産に成功している武具の多くは戦争の最中バイルの手に渡り行方がしれないが、技はすでに多くの冒険者の手に渡りその成果が実証されている。
今はこうして一つの研究成果を世に知らしめる機会を得たわけだが、俺はこれから先もずっと闇に怯え縛られ、神の如き輝きにまで囚われ続け生きてゆかねばならないのである。

あの、血の色をした目を持つ「魔剣士エレン」の幻影に取り憑かれて。


                      テイラー  記


はい。
最後まで読んで下さった方達、ありがとうございました。

ツッコミどころがあちらこちらに満載でしょうが、仏の心で許してやってください。
でもこれで、ヘドロのように濁り溜まった妄想を排出する事ができたのでちゅっきりです。ウヒ。

それでは今日はコレにて。しからば御免!(消)
by 191989nko | 2008-03-25 14:38 | こんにちはNPC(汁)
<< 氷の国の女王様 バトンでポン >>
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